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東京高等裁判所 昭和48年(ネ)2658号 判決 1975年3月26日

控訴人

竹花英二

右訴訟代理人

横山唯志

被控訴人

羽生栄一

右訴訟代理人

大浜高教

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し、原判決添付物件目録第一記載の土地上に存する同第二記載の建物を収去してその敷地部分を明け渡せ。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は、主文第一項と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出・援用・認否は、次のとおり付加・訂正するほかは、原判決の事実欄に記載のとおりであるから、これを引用する。<以下略>

理由

一本件土地が控訴人の所有であり、被控訴人がその一部である本件敷地上に本件建物を所有して本件敷地を占有していることは、当事者間に争いない。

二(一)  被控訴人は右敷地を賃借権に基づき占有しているものであると主張するのに対し、控訴人は被控訴人が賃借権を有することを争うので、この点につき判断する。

<証拠>を総合すれば、次の事実を認めることができる。すなわち、

控訴人の父勝年は昭和七年遠藤護章からその所有の本件土地とその地上に存在する建物(工場と住居)を賃借し、ここで撚糸業を営んでいた。遠藤護章は昭和二〇年一月死亡し、遠藤忠が家督相続した。遠藤忠は勝年に対し、昭和二二年本件土地とその地上の建物を代金六万円で売却することを約し、勝年は遠藤忠に代金の一部四万円を支払つた。しかし、本件土地の分筆手続がおくれたため、昭和三五年三月頃まで残代金の支払、所有権移転登記がされないままになつていた。その間、勝年は被控訴人に対し昭和二七年一〇月一日本件土地上の建物のうち約一四坪の工場と居宅を期間五年、賃料一か月二、〇〇〇円、敷金一万円の約束で賃貸し(上記工場等賃貸借の点は当事者間に争いがない)、被控訴人はその工場でボール箱の製造販売業を営んだ。勝年は被控訴人のボール箱製造販売業に共同経営者として参加することとなり、主としてその販売面を担当したが、経費の分担、利益の分配等の点で被控訴人との間に紛争を生じ、共同事業開始後一、二か月で共同事業から手をひいた。しかし、その間、勝年は、集金したボール箱の販売代金の一部を被控訴人に交付しないで生活費に費消し、また、被控訴人所有の自転車を無断で入質し、これらにより、被控訴人に対し一八、五〇〇円の損害賠償債務を負担することとなつた。勝年は昭和二七年一〇月末頃被控訴人から一万円を借り受け、その代り前記工場と居宅の家賃を一か月一、〇〇〇円に値下げし、かつ、被控訴人は、勝年の要請により、更に昭和二八年三月頃二万円を勝年に貸し与えたが、勝年は被控訴人に対し、本件敷地部分を建物の所有の目的で期間を定めず賃貸し、右二万円の利息と本件敷地の賃料を同額として相殺することを申し入れ、被控訴人はこれを承諾した。そこで、被控訴人は、右賃貸借契約に基づき昭和二八年五月頃約一二坪の作業場を建築し、その後二、三回右作業場に建増を施こし、その結果本件建物となつた。その後、昭和三五年になつて、遠藤忠から勝年に対し、昭和二二年に締結された本件土地およびその地上の建物の売買につき、残代金を増額して支払を受け所有権移転登記手続をとりたいとの申し出があり、遠藤忠と勝年、控訴人の三名が協議した結果、残代金を二〇万円に増額し、所有権移転の登記は勝年の長男で生れた時から勝年と同居している控訴人が受けることに合意が成立した。そして、この合意に基づき、控訴人が遠藤忠に残代金を支払い、遠藤忠は昭和三五年三月二日本件土地とその地上の建物につき控訴人に所有権移転登記を経由した。この所有権移転登記の経由後も、被控訴人は従前どおり本件敷地を使用し、また、工場等の賃料として勝年に対し一か月金一、〇〇〇円の支払を続けた。昭和三六、七年頃になつて、勝年の友人の宮田勝が仲に入つて、勝年と被控訴人間の従前の債権債務および被控訴人が本件敷地を使用している問題の一切につき解決を試みたが、話合がつかなかつた。(なお、被控訴人の勝年に対する前記金二万円の貸金の証書は被控訴人の手許にないが、これは、この貸金の精算がなされて、同証書が勝年に返還されたからではなく、控訴人名義で本件土地を遠藤忠から買い受けるにつき勝年が本件土地代金を融資してくれる人に見せるため借用したいとの勝年の要請により、被控訴人が一時右証書を勝年に貸したところ、それが返還されないままになつているものである。)

以上の事実を認めることができる。以上の認定事実に反する前記証人竹花勝年、宮田勝の各証言、控訴、被控訴本人尋問の結果の各一部は、前記認定に供した証拠に照らして措信しない。

(二)  前記認定事実から判断すれば、勝年と遠藤忠との間に本件敷地を含む本件土地につきなされた売買契約においては、代金全額の支払を完了したときに買主たる勝年に所有権を移転する趣旨の契約であつたと解するのが相当であり、被控訴人は右売買契約上の買主たる地位にある勝年(ただし代金全額の支払を完了していないため未だ所有権を取得してい)から本件敷地を建物所有の目的で賃借して建物を建築して同敷地を占有しているものであるところ、その後、遠藤忠、勝年、控訴人の三者の合意により、右売買契約上の買主たる地位が勝年から控訴人に譲渡され、これに基づき、控訴人が代金の支払を完了して本件敷地を含む本件土地の所有権を取得し、控訴人が現に本件敷地の所有者となつているものというべきである。従つて、被控訴人は控訴人に対し前記賃借権を主張することができないかのように見える。しかし、控訴人は本件敷地につき売買契約がされて売買代金六万円のうち四万円が既に支払われており、かつ、被控訴人が勝年から賃借して建物を建てている等の事情を知りながら、しかも、同居の父勝年の買主たる地位を承継し、本件敷地の所有権を取得したのであるから、このような場合には控訴人を右賃貸借の賃貸人である勝年に準ずる地位にあるということができるといわなければならない。従つて、被控訴人は、控訴人を勝年と同視し、勝年に対する前記賃借権をもつて控訴人に対し主張することができるものといわなければならない。のみならず、控訴人が本件敷地の所有権を取得したのちも、被控訴人が従前どおり右敷地を使用していたのに対し控訴人は右取得当時異論を述べたことがないこと前記のとおりであるから、控訴人は勝年と被控訴人の前記賃貸借につき賃貸人たる地位を暗黙に承継したものというべきである。

よつて、被控訴人の抗弁いずれにしても、理由がある。

三そうすれば、控訴人の本訴請求の理由のないことは明らかであり、これを棄却した原判決は相当で、控訴人の控訴は理由がないから、これを棄却すべきである。そこで、訴訟費用の負担につき民訴法九五条・八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(満田文彦 真船孝允 鈴木重信)

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